アスカガSS

「カガリ、話があるんだけど…今時間あるかな?」
クサナギ館内、東部ブロック廊下。
声をかけたのは宵闇色の髪の少年、アスランだった。
「ああ、少しくらいなら……どうしたんだ、急に改まって」
多くの被害者の出た戦争は終結したとはいえ、まだやる事は多い。
オーブ新盟主であるカガリも例外ではなく仕事が残っているのだが、
最近やっと一段落ついたため、そう焦ることも無い。
 アスランは今飛んでいた勢いのまま、後ろからカガリに抱きつく。
「な゛!…い、いきなり何やってんだオマエは!はーなーせーーッ!!」
腰に回された腕を掴み抜け出そうとするが、やはり力の差は大きく、なかなか上手く行かない。
「大人しくしてちょっと話聞けって!」
耳元で声がするのに少し驚いて、抵抗の力を弱くする。止めはしないけど。
「カガリ、あのさ…」
雰囲気がいつもと違う。
彼にしては珍しくゆとりが無さそうなのを感じて。
何を言おうとしてるのか、瞬間的に解った。待ち望んでいたそれ。
けれど嬉しさと同時に込み上げてくるのは、

恐怖。

「いやーっ!!」
きっとアスランは驚いているだろう。
当たり前だ、いきなりパニック状態になったんだから。
「カガリ、」
「嫌だ聞きたくない!」
体を揺すりながら頭を振り耳をふさぐ。
「カガリ!」
「嫌だっ!!」
回された腕の力が強くなっている。
「どうしたんだ一体!」
「それを聞いたら、もう戻れなくなる!」
「何を言ってるんだ」
「お前もいつか居なくなるんだろう?お父様のように!」
後ろで息を飲む音が聞こえた、気がする。
「お父様は私を愛してくれた!血の繋がった自分の子供では無かったけれど、
 それでもたくさんの愛情をもって育ててくれた、でも死んでしまった!
 私達を守ってだ!!お前もいつかは同じように居なくなるんだろう!?」
早口でまくしたててやる。

 あまり長居したわけではなかったけれど、砂漠に居た時も皆が良くしてくれた。
特に背の小さい彼は一番優しかった。いつも私の事を気にかけてくれた。
でも、死んでいった。
 お父様は私が小さい頃から厳しかったけれど、でも暖かく育ててくれた。
他にもたくさんの者達が、愛情を持って私に接してくれていた。
でも、死んでいった。

「みんな私の前から居なくなってしまうんだ!きっとお前も一緒だっ!!」

 今なら、まだ諦められる。
万が一彼が死んでしまっても、それは友達が死んだのだから。
恋人が死んだのではないのだから。
同じ1つの大切な命には変わりないけれど、自分の中から失われるものの大きさは違う。
 どんなに嫌でも、聞いてしまったら彼の言葉を絶対に受け入れてしまうから。
そうなったら戻れない。
それは嫌だ。
怖いんだ。




「カガリ」

彼が、今度は前から抱きしめてくる。
さっきまでのような『腕を回している』なんてものじゃない。
強く強く、何かを繋ぎとめるように。
ぎゅぅっと。
「俺はここに居るよ。どこにも行かない。」
彼の言葉が身体全体に沁み渡る。
「……本当に?」
「本当に。ずっと隣に居る。」
「お前、この前ジャスティスもろとも自爆する気だったじゃないか」
「あの時ははそうするのが一番良いと思ってたんだ……
 今同じ事態に遭っても、もうあんな事考えないよ」
「所詮は口約束だろ」
「俺を信じろ、カガリ」
もうダメだ、とめられない。


「好きだ。愛してる。」


「………誓えるか?」
「この唇に誓って。」
言うが早いか、彼の顔が覆い被さってきた。
濃厚なキス。拒否する間すらなく。
頭がぼぅっとして来た頃に、彼が離れた。
息を整えてから言い放つ。
「ばか。」
「何だよそれは」
「あのな、私はこう見えても偉い人なんだからな、忙しいんだぞ」
「知ってる」
「滅多に会えないんだぞ」
「知ってる」
「夜とか護衛つけないと出歩いちゃいけないんだぞ」
「知ってる」
「無断外泊とか絶対に不可能なんだぞ」
「知ってる」
「ガサツで男勝りだぞ、手料理とかほぼ無縁なんだからな」
「痛いほど知ってる」
なんだ痛いほどってのは。
でも。
苦しいくらいに暖かさが伝わってきて。

「……しょうがないから信じてやる」
こっちからも背中に手を回してやる。
「…ありがとう」
彼の手が頭にまでのぼってきて撫でられる。くせっ毛だからツンツンするだろうに。

「好きだよ、カガリ」
なんか悔しいけれど、嬉しくて涙が出てきた。
彼には気付かれない内に、彼の服の胸の辺りに顔を押し付けて拭った。
でも上の方から微笑が聞こえたから、やっぱりバレてるかもしれない。
…余裕っぽいのがシャクだから、もっと強く抱きしめてやるっ。

あとがき

去年の冬休みに超突発的に浮かんだので勢いだけで書いてみたシロモノ。
(SEEDが終わっててDESTINYが始まってない頃ですよ)
シリアスなのに甘いよ。アスラン台詞回しわかんないよ。ってかクサイよ。
告白シーン書いてて死にそうでした。こっちが恥ずかしいっつーねん。
あと微妙にエロ系の話が混ざってるのは、じゅにスラが
「アスランはむっつりだ」と確信してるためです。
続編(DESTINY)を見てない&始まる前に書いたモノなので、
パラレルっつーことで本編と食い違ってても許して下さい。
では、読了ありがとうございましたー。

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2005.08.30 upload