Good Night

「ソーマくん、まだ起きてる?」

数十センチ離れた所からリクが小声で聞いてきた。
同じ部屋で布団を並べて寝ているのだ。
こういうのは慣れないので本当は一部屋わりあてて欲しいのだが、居候という身分で贅沢は言えない。
(そもそもこの家に空き部屋など余ってなかった)

「うん、起きてる」

昼過ぎに少しうたた寝してしまったせいか、普段より睡魔の攻撃が弱かった。
別に学校に行ったりするワケではないから支障はない。

「で、何?」

まさか伏魔殿に行くとか言い出すつもりだろうか。
それにしては時間が遅すぎるし、リクも布団から出ない。

「ええっと…ソーマくんは、その」
「ボク?」
「家族と離れちゃって、寂しくない?」
「…はぁ?」

確かに兄さんと志が違うのが悲しいとはこぼした事があるが、寂しいなんて一言も言ってない。
第一、オレはそんなコドモじみたこと言わないぞ。

「あのなぁ、」

言いながらリクを見ると、目を細めて天井を…いや、頭上に広がる空間をぼんやりと見つめていた。
その目に映るのは空虚感。
…さっきの『家族と離れて』という言葉は、そのままコイツにも当てはまる。
両親がおらず、ずっと祖父と2人で暮らしていたのに、その祖父がとある事件により入院するハメになり、
しかも回復すると同時にどこかへ消えてしまった。
特に話を聞いたことがあるわけではないが、きっとかなり小さい頃からこの家に住んでいたのだろう。

家のどこに居ても家族の思い出が残っている。
それは余計に、今は居ないと言うことを思い出させて――

――何が言いたいのか理解してしまった。頭の回転が速いのもいいことばかりじゃない。
あーもう、仕方ないなぁ!

「そんなわけ、ない、だろ。
 …それで眠れなかったんだ。良かったら一緒に寝てくんない?」

え、と言いつつリクがこっちを向いた。あからさまに表情が明るくなっている。
効果音をつけるなら「パァァッ」って感じ。…カードゲームとか苦手そうだな、コイツ。

にしても、リクが意外と素直でない事に軽く驚いた。
自分の心理押し付けるなんて、相当ひねくれてる。それとも年上だからって簡単に甘えられないとか?
……ボクだってコイツに甘えさせることくらいできるのに。甘やかしはしないけど。
なんとなく子供扱いされた気がしてちょっとムカついたので、リクに背を向けるように寝返った。

「うん、喜んで。きみがそんなこと言うなんて珍しいね」

のん気に笑ってるし。
いったい誰のためだと思って…ッ!!

「それじゃ…」

リクはもぞもぞと抜け出し、自分の枕を持ってボクの布団に入ってくる。
たまに背にあたる感触から、こっちを向くように横になったのが判った。
体の向きを変えちらりとリクを見ると、にこにこと嬉しそうだ。人の気持ちも知らないで。
…まぁ、悪くはないけど。

「それじゃ、おやすみー」
「…おやすみ」

なんでもない挨拶。こんなのがすらっと出るコイツは、きっと幸せな家庭で育ったのだろう。
…少しだけ懐かしい気がするのは、きっと感化されただけだ。

家族、ね…。

そう遠くない所にいるはずの黒髪の女性を思い出しかけ、やめる。眠れなくなるだけだ。
もう一度だけリクの顔を盗み見てから、ボクは布団を引っかぶった。

あとがき

あらかじめ言っとくけどただの添い寝ですからっ!!(何。
頭良さげだけど“家族”について模索中なソーマくんと、
寂しがりなのを表に出さないリっくんを書きたかったのです。
でもリっくんは翌朝、ソーマくんの寝相の悪さに辟易してるに違いないw

ほいでは読了ありがとうございましたー。

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2005.08.30 upload