ソーマくん誕生日SS:前編

 「あー…」
朝のニュース番組を見ていたリクがいきなり変な声をあげた。
つられて朝食を摂っていたソーマもTV画面を見る。そこに映っていたのは、
 「…あさの占いカウントダウン?」
民法の朝のニュース番組ではお馴染み、12星座占いだった。
 「僕のうお座、11位だったんだ。ちょっとショック…」
肩をすぼめている。
 「そんなのいちいち信じる方がどうかしてる」
すぐさま興味を失い、ソーマは眼前の食事の攻略を再開した。
けれどリクは傍らに置いた白い神操機をいじりながら続ける。
 「でも、なんか気になっちゃわない?」
 「ならない。」
一言で切って捨てられ、リクはあうーとか言いながらうな垂れた。
しばらくはそのままカタカタと震える神操機を突っついていたが、ふと何か思いついたように顔を上げて尋ねてきた。
 「ね、ソーマくんて星座はなに?」
特に熟考するようなコトでもないので、反射的に答える。
 「Widder」
 「え、ビッター…? なに?」
 「あ、悪い。
  日本語だと確か――ええと、ひつじ」
いちおう長い間留学していたおかげで、日常的でない単語は日本語で出て来ないコトがあるのだ。
意識してやめないと、と心に書き留めておく。
 「おひつじ座かぁ……って、確か誕生日今くらいじゃないの?」
 「ん、3月28日」
 「えぇぇーーーっ!!」
いきなり大声を出されたので、一瞬固まってしまう。
 「…何だよ」
 「それって1週間以上前じゃない! なんで言わなかったのさ?!」

リクは先週のソーマに関する記憶を漁る。
そういえば、妙に頻繁にカレンダーを見ていた気がする。
あの微妙な表情は、楽しみを我慢した諦めの表情だったのか。

 「え、いや、だって今まで聞かれたことな」
 「ケーキもプレゼントも用意してないよー! どうしよう」
 「…え?」
自分から質問したんだから最後まで答え聞けよ、と一瞬ムっとしたソーマはその言葉に少し驚いた。

プレゼント。魅惑的な響き。
プレゼント。なんて夢のある言葉。

…はっ、何をバカなことを。もうオレは子供じゃないんだぞ!
などとソーマが葛藤している事なんてつゆ知らず、リクはあーでもないこーでもないと呟いている。
と、
 『おいリク』
今までずっと黙っていた神操機から、不機嫌そうなコゲンタの声がした。
 「うん?」
 『時間はいいのか?』
その言葉に2人が時計を見る。
 「…あああーっ!!」
バタバタと慌てて登校の支度を始めるリクを見て、
(もしかしてボクの所為なのか?)
と軽い罪悪感を覚えるソーマだった。

***

全力疾走の甲斐無く、彼にとって稀な遅刻をしてしまったリクは、休み時間になってから
ボート部員仲間の級友たちに取り囲まれた。
話題はもちろん、今朝の遅刻(の原因となった事件)についてだ。

 「というわけで、ソーマくんの誕生日パーティーを開いてあげたいんだけど…」
リクが切り出すと、
 「子供って自分の誕生日気にするのに、よく黙ってたわねぇ」
モモがいきなり脱線し、
 「ああ、それはいつもの『オレはガキじゃない!』ってヤツじゃないか? 変に我慢してたんだろ」
リュージが展開させ、
 「ナルホド~」
リナも便乗したところで、
 「……あの、パーティーの事なんだけど」
話を戻す。いつものパターンだった。

リクは最低でもケーキとプレゼントを用意して、ささやかなパーティーを開きたいと説明した。
 「それはいいですねぇ」
 「よし、ケーキはオレに任せろ」
 「ホント? ありがとうリュージくん」
 「そ、それじゃあわたし、リっくんと一緒にプレゼント買いに――だってわたしだけじゃ
  ソーマくんの好きなものわかんないし、リっくんに任せて変なもの買っちゃったら困るからっ!
  別に2人でショッピングなんてデートみたいでいいなー、なんて全然ーッ!!」
 「一緒に行ってくれるの? ありがとうモモちゃん、心強いよ」
 「あれ、私はどうしたらいいですかー?」
 「なら材料の買い出しとかしなきゃならんから、オレを手伝ってもらえるか?」
 「それお願いしちゃっていいかな、リナちゃん?」
 「わかりました! トラさんの好きそうなものも一緒に買っておきますね~」
 「あは…コゲンタもきっと喜ぶよ」
神操機から聞こえる『いらねー!』という叫び声は、悪いが無視する。
 「んじゃ、6時から開催ってコトで、全員それまでに準備するように! ……でいいか、リク?」
なんやかんだで気の良い仲間たちである。
話は簡単にまとまった。いいお友達が出来て良かった、と素直にリクは思う。

 「うん、みんな手伝ってくれてありがとう」
自分のワガママにも近い突然の申し出に、喜んで乗ってくれる。
心の中でもう1度、感謝の言葉を彼らに向けて想った。
 「よーし、それじゃあ、作戦開始ー!!」
 「「「おー!」」」

***

――1:料理担当チーム(in台所)

 「玉子、牛乳、生クリーム、小麦粉、砂糖、イチゴ……うし、全部揃ったな。っておい麻生、これ何だ?」
 「ああ、それはトラさんへのお土産です~」
 「こ、こんなん食べるのか…?」
 「喜んでくれるかなー♪」
 「多分ムリだと思うが……さ、始めるぞ」
 「はーい。ところでどんなケーキにするんです?」
 「そりゃ勿論、定番のショートケーキだぜ!」
 「それで、スポンジはどこですかー?」
 「何言ってるんだ、これから作るに決まってるだろ」
 「えぇ? スポンジから作るんですか」
 「当たり前だろ。既製品なんて邪道だ邪道!!」
 「…電動泡立て器ないみたいですけど、もしかして生クリームは」
 「ああ、そのくらい気合でなんとかなる!」
 「……が、がんばりますぅ…」

――2:プレゼント担当チーム(in商店街)

(あぁ、わたし本当にリっくんと2人だけでショッピング!?
これってもしかして手とか繋いじゃっても自然、むしろ繋がない方が変だったりして…
…ハッ、なに考えてるのよモモ!わたしとリっくんはただの幼馴染なんだからそんな恋人同士みたいなコトするワケが……
……恋人? キャアアアッ、そんな恋人だなんてーっ)
 「ねぇモモちゃん」
 「はひっ!?
 「…ええっと、もしかして脅かしちゃったかな」
 「ちちち違うの! ちょっと考え事に没頭しちゃっただけだから、リっくん悪くないから!!
  それで、な、なに?」
 「うん、プレゼントどんなのが良いかなぁって。何かいい案ない?」
 「そうねぇ…やっぱり好きなものがいいんじゃないかしら。
  ソーマくんが好きなものってなぁに?」
 「食べるのは好きみたいだけど」
 「それはリュージくんたちに任せてOKでしょ。他には?」
 「うーん…、何だろう」
 「それじゃあ、文房具とかは? 使うと思うけど」
 「学校行ってないから使わないんじゃないかな」
 「おもちゃは? ロボットとか」
 「また『子供扱いするなー!』って怒ると思う…」
 「あそーだ、お洋服は? いつも同じの着てるじゃない」
 「わぁ、それいいね!……あ」
 「どうしたの?」
 「えっと、予算1000円しかないんだけど、それで足りる?」
 「…ちょっと無理ね」
 「そっかぁ…」
 「いつも家に居るのよね。TVとかは何見てるんだろう」
 「それ前に聞いたら、ほとんどニュースだって。そういえば朝も株の話になると真剣に見てたみたい」
 「…株券ってわたし達でも買えるかな、リっくん」
 「ちょっとムリじゃないかな…」
 「……どうするのよ」
 「……どうしよっか」
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…お店で品物見て考えよっか…」
 「うん、ごめんモモちゃん…」

――3:当事者チーム(in公園前)

 『ソーマ、どこ行くんだ?』
 「なんか知らないけどとにかく18時まで帰ってくるなって言われた。だからそれまで時間つぶせるとこ」
 『具体的には?』
 「ん…本が多いとこかな」
 『本屋とか図書館?』
 「そうそう……あ」
 『なんで止まるんだ?』
 「リクから図書館の場所、まだ教わってない…」
 『…おい』
 「そうだフサノシン、降神するから空から探してくんない?」
 『はぁ!? 甘えるなよ、ちゃんと交番で聞けっ』
 「交番の場所も知らないんだっ」
 『(そのくらい教えとけよ家主(リク)……ッ!!)
  自分で歩いたほうが覚えるだろ、オレは嫌だ!』
 「式神・降神っ!」
 『あ゛ーーーーーーっ!!!』

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