ソーマくん誕生日SS:後編

――午後6時、太刀花家。

 「ただいま」
ソーマが戻った途端、

パ・パーン!!

クラッカーの音が鳴り響いた。
 「「「ソーマくん、お誕生日おめでとー!」」」
 「…え?」
音が多いと思ったら、なぜかボート部メンバーまで揃っていた。
突然のことに面食らっていたが、そんなのお構いなしで話は進む。
 「急いで用意したから、あんまり豪華じゃないけど…」
言いながらリクが食卓を指し示す。
 「うわ…」
その上には、ケーキ屋にひけを取らないであろう、見事なホールのショートケーキが載っていた。
円を作るように11本のローソクが刺さっている。
その中央には定番のプレートに“たんじょうびおめでとう”の文字。
 「あとねあとね、はいコレ」
リクの手には水玉模様の包装紙に包まれた、箱らしき物があった。
まさかプレゼントまであるなんて。
ソーマは受け取ったそれを暫し観察する。手の平サイズより少し大きくて、重量はそんなになかった。
 「…開けていいの?」
おずおずと尋ねると、
 「うん」
肯定の返事と笑顔が返って来た。
それに安心したのでするするとリボンをほどき、包装紙をはがす。
現れたクリーム色ストライプの箱を、どきどきしながら上下にぱこっと開く。
その中にあったのは、
 「わ…」
シンプルな鉄フレームの写真立てだった。
白い鉄板の枠を針金が縁取っている。カワイイやカッコイイとは違った魅力。
ソーマは一目で気に入った。

今朝のリクの様子から何かしらやってくれるだろうとは予想していたが、まさか1日でここまで準備するとは思ってなかったので、正直驚いた。
 「どんなのが良いか分からなかったから、無難なのになっちゃった…」
てへ、なんて効果音が似合う顔で照れ笑いしているリク。
 「そーよー、リっくんたら何買うか全然考えてなかったんだから。色んなお店見れて楽しかったけどv」
言葉とは裏腹、楽しそうなモモ。
 「さ、生クリームがダレちまうからさっさと食おうぜ!」
不良だとは思えない爽やかさで主導権を握るリュージ。
 「あ、ソーマくんこっちですよ~」
意外にも面倒見のいいリナ。
5人でちゃぶ台を囲んで座る。
 「はい、ローソクの準備オッケーよ」
 「それじゃあ電気消すね」
蛍光灯が消された。
ゆらゆらローソクの火が揺れながら、全員の顔をぼんやりと照らし出す。
すると空気がどこか神妙で厳かな、普段とは異なる雰囲気に包まれる。
(…久しぶりだな)
ソーマは思う。兄と2人の時はこんなことする余裕なんて無かった。

≪お願いごと決めてから吹き消してね。一息で消せたら、それが叶っちゃうんだから≫

――懐かしい母の声が思い出されて。
(願い事、ね…)
そんなの考えるまでもない。「また家族全員で暮らせますように」。
それと、

(それまではこのまま…この家に居られますように)

大きく息を吸い込み、一気に吹き出す。
ふぅっ
ぼ、と音を残して灯りが消えていく……が、2本残ってしまった。
同じことを繰り返す。と、今度こそ全て消えた。リクが電気をつける。
 「「「おめでとー!!」」」
雨のような拍手と、同時に降ってくる言葉。
恥ずかしさと嬉しさで胸が熱くなる。涙も出てきそうだったが、流石にそれは堪えた。
 「みんな…、ぁの、」
 「なに?」
視線が集まる。
 「えと、その、…………さんきゅぅ…」
面と向かってこんな事言うなんて恥ずかし過ぎるので、尻すぼみになる。だが、
 「どういたしまして」
大した事ではないかのようにさらっと流される。きっとこうしたやり取りも“当たり前”なのだろう。
家族と、友達とのそういったやり取りが。

(…ぼくもそれが“当たり前”だと思えるようになるだろうか)

 「はい、ソーマくん」
モモの声で我に返る。
切り分けたケーキを載せた皿が手渡された。その中央には、例のプレートが載っている。
モモを見ると「子供はこういうの好きよねv」と目で語りかけてきていた。
 「コドモ扱いするなってば!」
 「じゃあコレいらない?」
 「……そうは言ってないだろ」
…さっきの願いを1つ足しておこう。正真正銘、オトナになる。

――ローソクは一息で消せなかったけど。
でも、肺活量で人を選ぶ神様なんかに頼るよりは、自分のチカラの方が信じられる。
コドモじゃないから、自分の願いくらい自分で叶える。
家族と友達と一緒に居るのが当たり前になるように。

 「みんなケーキあるわね?」
 「うん」
 「あるよ」
 「はいー」
 「あるぞ」
 「それじゃあ、」
 「「「いっただっきまーす」」」
当たり前のやり取りが出来るオトナになる。
プレートを頬張りながら決意するソーマであった。

あとがき

公式でリッくんがうお座のO型と唐突に発表されたので、色々直しました…。特に前半。
ソーマくんの誕生日は色々考えたんですが、
「(性格から考えて)おひつじ座」「フサノシンの節季と関連付けたい」
ってのを念頭に置いて、ついでに中の人の誕生日も考慮したらこうなりました。
(旧暦にすると早水さんと同じ日、しかもフサの節季内になるハズ)
というわけでオリジ設定ですから信じないで下さいね。

にしても陰陽って登場人物多いデスネ。冗長になるからと削った所為で出て来なくなった人も居ますよ。
それに式神たちの影が薄くてスイマセン。出したいのは山々ですが、キャラクター把握できてなくて…。
次はもっと出してあげられるように頑張りますよ!

ではでは、読了ありがとうございましたー。

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2005.08.30 upload